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竹中ギー太の忍法帖

ノンポリギター弾きの日々異常無し日記

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ボサノヴァの歴史  ブラジル音楽のグローバル化

暑い夏に欠かせない音楽 ボサノヴァ

 

今回はボサノヴァの歴史という本についての感想です。

450ページもある大著なんですが、1990年頃の本なので図書館によく置いてあります。

前半の適当なあらすじと感想です。創作が多いようですが一応要所の日付などは事実と合わせて書いてあるようです。

ビバップジャズの黎明を描いた「バードは生きている」に影響を受けたような作風です。

 

 

 1、その著者 ルイカストロについて

 

 

ブラジル人の著者「ルイ・カストロ」がボサノヴァ黎明期のリオデジャネイロ周辺の音楽家たちの夢や実生活を記した迫真のドラマで、主に歌手兼ギタリストのジョアン・ジルベルトの視点で描かれています。

 

 

「ルイ・カストロ」は音楽家ではなくライターですが、ブラジル人でギターを弾けない者は居ないと言うことで、ギターの演奏に関する描写もレベルが高いです。

 

 

あのボサノヴァギターの名手で数々の名唱のバックを務め名曲を生み出した、パウロ・ジョビン(アントニオ・カルロス・ジョビンの長男)でさえ、音楽とは別の仕事で生計を立てていると言うくらいブラジルの音楽は厳しいようです。

今夏は息子(ダニエル・ジョビン)と来日して小野リサと共演するようですね。

 

 

 

2、50年代リオの音楽シーンでのジョアン・ジルベルト

 

 

 

この物語は1950年代後半のリオデジャネイロのミュージックシーンから始まります。

バイ―ア地方から上京してバックコーラス歌手としてなんとか暮らしていたジョアン・ジルベルトの生活が詳しく描かれているのですが本人から聞いたのでしょうか?聞いたとしても本当のことは言わないと思いますが。

 

 

ジョアンは音楽の仕事で知り合った若い女性歌手のシルビア・テレス(10代)と恋に落ちたそうです。シルビアの両親は浮草のようなミュージシャンのジョアンとの交際に反対し、二人の仲は引き裂かれたそうですが、なにぶん昔の話ですのでよく分かりません。

 

 

古い時代の男女の恋など脚色があって当然なので、この本は事実をもとにした物語と私は捉えました。事実かもしれないんですが、ジョアン本人以外で生きている人はもうほとんど居ません。

 

 

いろいろショックなことが重なり、もともと時間にルーズなところが増長し、ついにジョアンはリオの音楽シーンでの居場所を失いどこかへ消えてしまうのですね。

結局バイ―アにある姉の家に転がり込んだんですが、そこで彼は時間をかけてある実験を行います。彼がかかわっていた「サンバカンソン」と言う音楽を捨てて、リオの壮大なサンバカーニバルを一人で再現できないかという実験です。ジョアンは半年間にわたり風呂場にこもって練習を続けたと言いますが、その後の彼の行動からしてもありうる話だと思います。

 

 

3、映画「黒いオルフェ」とアントニオ・カルロス・ジョビン 

 

 

 

ちょっと時間はさかのぼりますが、リオの音楽シーンで頭角を現していた一人の音楽家が居ました。その名を「アントニオ・カルロス・ジョビン」。

ナイトクラブのピアニストから作曲家への道を探っていたころ、ブラジル国の現役外交官であった「ヴィニシウス・ジ・モライス」の制作する演劇「黒いオルフェ」の音楽担当に誘われたのです。同時に若い女性歌手のプロデュースも手掛けていました。

それはシルビア・テレスだったのです。

サンバカンソンの作曲家として知られるようになったジョビンは自らの作品を世に出す機会を得て、アンダーグラウンドではありますが、高い評価を受けることになりました。

 

 

そして、ブラジルの国家的プロジェクトとして「黒いオルフェ」の映画化が企画され、ジョビンは音楽監督として主題曲「フェリシダージ」を献上しました。また作曲家兼ギタリストのルイス・ボンファは「カーニバルの朝」(邦題 黒いオルフェ)や「サンバデオルフェ」などのジャズ風のコードを持った曲を作っています。

 

 

4、コパカバーナにあったナラレオンのアパート

 

 

 

もう一つの流れがありました。

リオのアマチュアミュージシャンたちがとある女子高生のマンションにたむろし、ジャズを研究しつつ新しいブラジル音楽の可能性を語り合っていたのです。その少女の名は「ナラ・レオン」、そこには「カルロス・リラ」「ホベルト・メネスカル」「ルイス・エサ」などのアマチュアがジャズのコードをブラジル音楽に応用する方法を探索していました。その中心人物は「ホナルド・ボスコリ」という作詞家で後にボサノヴァという名称を考え出した人です。

 

 

ナラ・レオンは10歳~12歳でメネスカルと付き合い(マジですか?時代性ですか)その後はかなり年上のボスコリと公認の仲だったそうです。

 

コパカバーナ海岸からほど近いナラのマンションの一室に10代のアマチュアミュージシャンが集まったのですから浮名を流す人物もいたでしょうね。ナラの同級生にアストラッドという少女もいました。

 

 

バイ―アからリオに舞い戻ったジョアンには当然仕事はありません。1958年頃です。

いつの間にかジョアンもナラの部屋に転がり込んでいたのですが、当然の流れなのでしょうか?この本で描かれるリオは相当小さい都市のような印象です。人口20万人くらいでしょうか。たぶん人口の大部分を黒人やネイティブが占めていて。この本に登場するポルトガル系白人は10数万人程度だったんでしょう。

 

 

現在は世界最大の混血都市となっているリオ(人口740万人)ですが、当時は人種差別が激しく、この作品に登場する黒人は「バーデン・パウエル」(ブラジルの歴史的ギタリスト)くらいだったような気がします。なにぶん相当昔に読んだもので。ちなみに現在のポルトガル語圏の主国はブラジルです。(人口2億人)

 

 

5、ジョアンジルベルトのデビュー

 

 

 

そのころ、映画黒いオルファの成功で大物若手作曲家と呼ばれていたアントニオ・カルロス・ジョビンはサンバカンソンの代表的女性歌手エリゼッチ・カルドーゾのアルバムのプロデュースを手掛けていました。1958年のことです。

ジョビンはモライスとの共作の自信作「シュガ・ジ・サウダージ」の録音に際してギタリストを探していましたが、ある筋からジョアンを紹介されてそのギターと歌のオリジナリティに驚嘆することとなります。

 

 

カルドーゾの仕事が終わったのち、ジョビンはジョアン・ジルベルトのレコードを制作するために掛け合いますが、すべて断られ自費出版のような形で「ジョアンのシュガ・ジ・サウダージ」のシングルレコードを世に出します。レコード盤を作ると言うことは結構金がかかったのです。

 

 

6、ボサノヴァの誕生

 

 

 

ジョアンのシングルは数か月で大ヒットとなり、リオだけでなくサンパウロやバイ―アにもその名は広まりました。

ジョビンとしてはこの音楽を新しいシーンへと昇華したいというのが目標であり、さらにジャズ的な要素を入れたブラジルでは過去に無かった作品の発表へと向かったのです。「デサフィナード」作詞ニュウトン・メンドンサ 作曲アントニオ・カルロス・ジョビン

え? 作詞の人は誰ですか?この疑問にもこの本は独自の解釈を入れています。ジョビンのナイトクラブ時代にもメンドンサは登場してて伏線回収してるんですが、これは創作のようです。実在の人物ですが病気でこの曲の発表とほぼ同時期に死亡しました。

メンドンサ名義の曲はジョビンの作詞ではないかと言うのは非常にうなづけます。

 

 

ジョアンの2枚目シングルである「デサフィナード」はさらなる大ヒット(10万枚くらいかな)で世の中は「この音楽はいったいなんだ?」という疑問に溢れました。

結論としてはジャズコード進行をジョアンの奏法で演奏すればなんでもこうなるわけですが。

当時、新聞社にコネを持っていた音楽評論家のホナルド・ボスコリ(あのナラ・レオンの彼氏です)はこの音楽を「ボサノヴァ」(ポルトガル語でニューウェーブと言う意味)と名付けて、自分たち一派も関与していたことも強調しました。

 

 

7、ボサノヴァは世界へ

 

 

 

あらすじを全部書いてもしょうがないのでここまでとしますが、まだ半分も行ってません。

さてジョアンの運命は?ナラ・レオンは?シルビア・テレスは?未登場のエリス・レジーナは?とか、現在も価値のある録音のミュージシャンたちが次々と時代に翻弄されていきます。

 

 

本を読む前に(というか読まなくてもいいような)本物のボサノヴァを聴いて浸って欲しいです。

ジョアンとジョビンは見知らぬ土地であるアメリカで世界デビューを果たしますが、スタン・ゲッツと名乗るジャズプレイヤーとの確執、そして躍り出たヒロイン「アストラッド・ジルベルト」の歌うイパネマの娘。

 

 

ブラジルの幸福なバブル時代は終わりをつげ、軍事独裁政権へと変わり音楽家への迫害も起こります。

ブラジル人は富裕層向けラブソングであるボサノヴァに別れを告げ、社会的テーマを扱うMPBに熱狂します。

 

 

アメリカではボサノヴァの侵略をビートルズで撃ち落とし、ジョビンたちは失意のままばらばらに進んでいくのです。

 

ルイカストロ著 ボサノヴァの歴史 

 


ボサノヴァの歴史

 

この面白すぎるギリシャ神話のような物語にはさらに続編「ボサノヴァの歴史外伝 パジャマを着た神様」というのもありまして、350ページで読み応えがあります。

ナラ・レオンの生涯に興味がある人は必読ですね。

 

続編 パジャマを着た神様

 


ボサノヴァの歴史外伝 パジャマを着た神様

 

他にもジョビンの娘エレーナ・ジョビンの著書「アントニオ・カルロス・ジョビン ボサノヴァを創った男」や、セルジオ・カプラルという人の著書「ナラ・レオン 美しきボサノヴァのミューズの真実」など、とにかくブラジル人の本は面白くて読みやすいです。

 

 

ボサノヴァの本当の楽しみは彼らの人生のドラマを堪能することではないか、とまで思ってしまいます。

 

 

ブラジルは世界最大のギター国家です。ギターを弾かないミュージシャンは居ません。

 

この「ボサノヴァの歴史」という本、たぶんボサノヴァを聴かない人が読んでも面白いでしょう。

映画化希望なんですが、主人公存命のうちは無理かな。

 

 

長くなったうえにギターの話題がほとんど無くてお詫びのしようも無い内容ですが、ボサノヴァに関しては今後いろいろ書いていきたいと思っています。

 

 読んでくださってありがとうございます。