ゲイリー・ムーア 一流を超えた二流
バック・オン・ザ・ストリーツを聴いたのは中学生のころ。
相当古い作品かと思ってたら1978年で、シンリジィのブラックローズと同じ年だったとは驚きです。
ハードロックとフュージョンが混ざった微妙なアルバムではありましたが、ただ一曲「ドナの歌」というのが泣ける曲で、ゲイリーの歌も心にしみたんですよ。
「パリの散歩道」では盟友フィル・ライノットのダンディな歌と泣きのギターで王道ロックの名曲として現在も聞き継がれる名曲になりましたね。
全然、新人では無かったのです。この時点で10年のキャリアを持つベテランギタリスト、同年録音のシンリジィのブラックローズでは完全にバンドに溶け込んで、名曲名演のオンパレードでした。
で、ここから約5年間のキャリアが大荒れで、ジェットレコードとの契約も上手くいかず、迷走に次ぐ迷走なんですが、ギターは絶好調、ゲスト作品でも名演奏多数と言う状況でした。
ジェフベックより正統派で、ハードロックの申し子とも言うべきすごい人だったんですよ。
この時期ですね、日本でだけ発売された「ダーティ・フィンガーズ」が録音されたのは。
このアルバムに入っている「ヒロシマ」は、広島原爆投下をリアルな歌詞で熱唱される恐ろしいハーロックナンバーだったのです。
イギリスでもドイツでも発売中止になった作品が、80年代中期になってから日本で発見されて、ヨーロッパの人たちの間で大変な騒ぎになったそうです。
爆撃機エノラゲイ(B29)から核爆弾が投下され、少女や子供たちが焼かれていくさまを描いた一曲です。
ゲイリーのギターは荒れ狂い、救いのない叫びの曲だったんですが、ヨーロッパ各国の人々は共感して、ゲイリー・ムーアはヒーローと呼ばれるようになったのです。
80年代中期に入ってからのゲイリームーアは音楽業界の盛り上がりを受けて高予算の作品を連発して、特に日本ではギターキッズの間で神格視されたと言うわけです。
ゲイリーはフュージョンでは一本調子で名演は少ないようですが、ハードロックとバラードではどれも素晴らしい出来です。
何にでも手を出す節操のなさが一部では批判されていたような気もしますが、その部分もまた個性として、認めたくなります。
80年代後半には日本のアイドル歌手「本田美奈子」に楽曲提供してるんですが、同時期にブライアン・メイも提供していて、バブル期の日本の影響力が分かります。
本田美奈子は当時10代でゲイリームーアのギターをバックに唄ってるんですが、その「愛の十字架」は荷が重かったようです。
ゲイリーの最高作だと思う「ワイルド・フロンティア」のボーナストラックでゲーリーの歌が聴けます。今聞くと若すぎた本田美奈子の歌も胸にしみます。
「メシアが再び」のカバーが話題となった「アフターザウォー」も好評で、このまんまハードロック芸人で一生いけると思われたところに衝撃的と言うか、やっちまったなって感じのアルバムが。
おなじみ「スティル・ゴッド・ザ・ブルーズ」です。
ブルース集なら上手いギタリストは一度はやりたくなるのでしょうが、これはバブルっぽいブルース集で、肩の力がものすごいです。
しかもタイトル曲は良いバラードなんですが歌詞がちょっと。(ダサ)
ストーンズの「ブラウンシュガー」のようなブルースをテーマにした名曲には程遠いです。
そんなゲイリーも面白可愛いと思ってたのもつかの間、次から次へとブルース集が!
もう、ブルース専門ギタリストですが、なぜか演歌っぽい・・・・
7年間のブルース生活の後、ダンスロックなる柄にもない分野に手を出しつつジミヘン集とかやってたんですが、2001年にはなんと「バックトゥブルース」ですと。
結局、軸足はブルースに乗せたまま、ハードロックでも勝負できるぞっていう感じの晩年でした。
ブルースは圧倒的なテクニックでアルバートキングを始めとするベテランブルースマンと共演を続け、味も出てきて悪くはないんですが、最後まで畑違い感からは逃れられなかったような気がします。
たぶん、恵まれないブルースマン達を稼がせると言う気持ちもあったんでしょう。
ゲイリームーア死亡時は日本では結構騒がれまして、追悼ベストなんかも売れました。
ヒロシマ、パリの散歩道、サラ、など名曲満載のベスト
愛の十字架を聴くならこれ たぶん最高作
これはおまけです。
ギブソン レス・ポールがイマイチ似合わない永遠のギター小僧の58年の人生はあっけにとられるほど凄かったです。
2chで見たギャグを
白血病で亡くなった世紀の美女「チッ、ブライアンメイじゃないのか・・・」
なんて無礼な書き込み、でも面白い。
羽生結弦の最初の金メダルは「パリの散歩道」の圧倒的なショートからでしたし、日本人の琴線に触れる魂のギタリスト、忘れられない波乱の人生でした。
日本で選曲されたマニアックなベストアルバムは嬉しい曲ばかりだし、80年代のハードロック作品はアルバムで聞く価値があります。
そして、スタンダードになることは無いであろうブルース作品で遊ぶ子供のようなゲイリーには、忘れかけた何かを思い出させてくれます。
ブルースと言うよりは郷愁でしょうか。
ただの一流ではない、超越二流ギタリスト、それがゲイリームーアの思い出です。