コルトレーン・チェンジの解説
天の川 つまり銀河系の写真
2018年はジョン・コルトレーンの没後51周年と言うことで、コルトレーン・チェンジの考察です。
なぜ51周年が大事かと言いますと、作曲が完全にパブリックドメインになったからです。
60年代、コルトレーンのカルテットは全米を回って布教活動を行い、様々なジャンルの音楽家にインプロヴィゼーションの凄さを見せつけたのです。
本格的活動は1955年にマイルスクインテットに加入してから1967年までですので、11年間くらいです。
わずかな期間に天空まで上りつめるドキュメントは、本人の人生とは別のメタフィクションを形成しました。
主な足跡
1955年 マイルスデイビスのバンドに加入してビバップ音楽の連作を録音。
1957年 セロニアスモンクのバンドに加入、多数のリーダー作を録音。
1958年 マイルスバンドに戻りモード曲に取り組む。
1959年 ジャイアントステップス録音。
1960年 マイルスバンドを辞し、マッコイ、エルヴィンと自身のカルテット結成。
1961年 エリック・ドルフィーが加入し盛んにライブ活動。
1964年 コンセプトアルバム「至上の愛」発表。
1965年 フリージャズに傾倒。マッコイ、エルヴィンがバンドを離れる。
1967年 肝臓がんで亡くなる。 40歳
スポコンヒーローのような生き様は日本人のジャズファンに訴えかけたようで、50年以上たった現在でもファンは多いようです。
John Coltrane Omnibook: For C Instruments
第一部
目次
- 1、コルトレーンチェンジの発想は?
- 2、モーメント・ノーティス・チェンジ
- 3、レイジー・バード・チェンジ
- 4、ジャイアント・ステップス・チェンジ
- 5、カウントダウン・チェンジ
- 6、セントラル・パーク・ウエスト・チェンジ
- 7、フィフスハウス・チェンジ
- 8、夜は千の目を持つチェンジ
- 9、26-2チェンジ
- 10、サテライト・チェンジ
- 11、But Not For Me より
1、コルトレーンチェンジの発想は?
チャーリー・パーカーとセロニアス・モンクの啓示のようです。(?)
パーカーは晩年「C△のサウンド上にE△が聞こえる」と言っていたと伝わっています。
この言葉の意味は違うみたいですが、聞いた人(ジャッキー・マクリーン?)の記憶が正しくない可能性が高いですね。
リチャード・ロジャース作曲の歌曲「Have You Met Miss Jones」のサビは3トニック風なので参考にしたともいわれます。
この発想のコーチングはモンクが担当したと言われています。
2、モーメント・ノーティス・チェンジ
モンクのバンドに参加後のコルトレーンのリーダー作「ブルートレイン」に収められた曲「モーメント・ノーティス」の進行。
Em7 A7 Fm7 B♭7 E♭△7 A♭m7 D♭7
普通のビバップ進行ですが、ジェリー・バーガンジィは「Moments Notice Change」と名付けてジャストフレンズに使用しています。
3、レイジー・バード・チェンジ
Am7 D7 Cm7 F7 Fm7 B♭7
E♭△7 Am7 D7 G△7 A♭m7 D♭7
後半は E♭ G A♭m7≒B とも取れてジャイアントステップスの元ネタかも知れません。
John Coltrane - Giant steps full jazz album
4、ジャイアント・ステップス・チェンジ
B△7 D7 G△7 B♭7 E♭△7 Am7 D7
G△7 B♭7 E♭△7 F♯7 B△7 Fm7 B♭7
E♭△7 Am7 D7 G△7 C♯m7 F7
B△7 Fm7 B♭7 E♭7 C♯m7 F7
16小節で完全な3トニックシステムを構築した記念碑的作品。
1段目を見るとBで始まりE♭で終わると言う不完全なものですが、このシステムが一部使用でも成り立つことを示しています。
5、カウントダウン・チェンジ
Em7 F7 B♭△7 D♭7 G♭△7 A7 D△7
Dm7 E♭7 A♭△7 B7 E△7 G7 C△7
Cm7 D♭7 G♭△7 A7 D△7 F7 B♭△7
Em7 F7 B♭7 A7
一回転する3トニック C A♭ E にドミナント7thを入れた進行
C△7 E♭7 A♭△7 B7 E△7 G7 C△7
を原型に、アタマのコードをDm7に変えたもの。
スタンダード進行のⅡⅤ-Ⅰ のチェンジとして用いられますね。
一小節遅れて解決するのが特徴。
6、セントラル・パーク・ウエスト・チェンジ
B△7 A7 D△7E♭7 A♭△7 C7 F△7
アタマの進行を少し簡略化しました。
これはメジャーコードの4トニックシステムです。
7、フィフスハウス・チェンジ
Gm7 A♭7 D♭△7 E7 A△7 C7(♭9) Fm7
Dm7 E♭7 A♭△7 B7 E△7 G7 C△7
マイナーキーのⅡⅤ-Ⅰのコルトレーンチェンジの参考になります。
Gm7は♭5を入れる方法もあります。
8、夜は千の目を持つチェンジ
こじつけですが、ⅡⅤ-Ⅰ にはこの方法が使いやすいです
Cm7 F7 D△7 F7 B♭△7
9、26-2チェンジ
コンファメーションのAとA’パートのコルトレーンチェンジです。
F△7 A♭7 D♭△7 E7 A△7 C7 Cm7 F7
B♭△7 C♯7 F♯△7 A7 Dm7 G7 Gm7 C7
F△7 A♭7 D♭△7 E7 A△7 C7 Cm7 F7
B♭△7 A♭7 D♭△7 E7 A△7 C7 F△7
10、サテライト・チェンジ
スタンダード曲「How High the Moon」のコルトレーンチェンジ
G△7 B♭7 E♭△7 F♯7 B△7 D7 Gm7 C7
F△7 A♭7 D♭△7 E♯7 A△7 C7 Fm7 B♭7
11、But Not For Me より
ここで初めてのコルトレーンチェンジ基本形です。
E♭△7 F♯7 B△7 D7 G△7 B♭7 E♭△7
補足 マイナーkeyのコルトレーンチェンジの基本形
ドリアンモード曲のチェンジとして煩雑に使用されます。
Cm7 E♭7 A♭△7 B7 E△7 G7 (♭9) Cm7
(感想)さすがコルトレーン、どんなKeyでも楽勝です。
この記事はこの本を参考にして書きました
John Coltrane Plays "Coltrane Changes" Songbook: C Instruments
第二部
コードチェンジだけ書きだしても演奏方法は分かりませんよね。
ある程度速いテンポを想定して八分音符で埋める方法を考えます。
というか、コルトレーンは次の方法を使っています。
C△7thとC7thには、
メジャートライアド ドミソ=135
135,153,315,351,513,531
展開形 513 351
4音パターン ドミソド=1351
1351,1315,1531,1513,3151,3115,3511,5131,5113,1135,1153
展開形 5135 3513
C△7の場合、ミドルストラクチャートライアド ソシレ も稀に使用。
メジャーテトラコード ドレミソ=1234で記述
1234,1243,1324,1342,1423,1432,2134,2143,2314,2341,2413,2431
3124,3142,3214,3241,3412,3421,4123,4132,4213,4231,4312,4321
展開形 4123、3412、2341
全可能性を欠きだしましたが、基本形から必要に応じる程度です。
7thを引き立てるために、ビバップスケール
C7の例 ドシシ♭ド、ドシシ♭レ、ドシシ♭ソ
あるいは7thを含むテトラトニックスケール(自由に作ったもの)
例 ソシ♭ドレ 実際の使用は レシ♭ソド 他にもパターンあり。
m7にはドリアンスケール
Dm7 の例 レミファソ レミファラ 逆行の ソファレミ ラファミレ
この練習で全部いけます。コルトレーン風なら。
覚えておくべき方法としてオーギュメントスケールの使用があります。
3トニック C E A♭ に対してCオーギュメントスケールが同様にサウンドします。
ドミナント7thコードを無視した場合はコルトレーンチェンジはそのkeyのオーギュメントスケールだけでサウンドします。
この方法は自分で確認して判断してください。
ギタリストのパット・マルティーノはジャイアントステップスのチェンジをドリアンスケールのみを使うエチュードを発表しています。
コルトレーンチェンジでもスローなテンポの場合は自由な方法で問題は無いと思います。
まとめ
以上の方法を知れば、ほとんどのスタンダード曲をコルトレーンチェンジにできます。
ブルースやリズムチェンジも簡単に分かるはずです。
Fのkeyのブルースの例
F7 A♭7 D♭△7 E7 A△7 C7 Cm7 F7
B♭7 A♭7 D♭△7 E7 A△7 C7 F7 D7
Gm7 A♭7 D♭△7 E7 A△7 C7 F7 C7
Cmの場合
Cm7 E♭7 A♭△7 B7 E△7 G7 (♭9) Cm7 C7(♭9)
Fm7 E♭7 A♭△7 B7 E△7 G7 (♭9) Cm7
Dm7(♭5) E♭7 A♭△7 B7 E△7 G7 (♭9) Cm7
冗談なら大丈夫ですが、本気でこれだけでやるのは危険です。
時々一部分だけ挿入する程度なら面白いですね。
ただし、メロディは合いませんよね。
コードに合わせてメロディもチェンジしている場合が多いですが、セッションなどでは打ち合わせなしで勝手に演奏しても大丈夫なはずです。
バックメンバーのレベルを確かめながら出来る範囲で行うのが大人かと思います。
アドリブの一部で使用すると楽しい雰囲気が演出できて、リスナーも驚くことでしょう。
楽器にもよりますが、得意としている人はそれほど多くは無いので、自分の個性の一部として取り入れることは問題ないと思います。
パーカーもそうでしたがコルトレーンの方法論は全楽器共通だと言うところが素晴らしいですね。
調べて見たら上記のジャイアント・ステップス以下は数か月ですべて録音したものです。
同時期に「カインド・オブ・ブルー」とか「マイ・フェイバリット・シングス」などのモード作品もやっていたわけなので、ビバップレベルの革命を一人でこなしたとも言えるほどです。
この後はエリック・ドルフィと組んでモードの探求に専念するわけですが、あちこちにコルトレーン・チェンジが聞こえて口元が緩んでしまいますね。
ビバップ同様、古びることのないジャズの理論体系としてモードと共に取り組んで見るのが正解だと思いました。
それでは!