ジャズアドリブ理論 Ⅱ-Ⅴフレーズの考え方
ジャズのアドリブを勉強する際に必ず目にするのは、Ⅱ-Ⅴフレーズを覚えると言う考え方です。
ジャズの歴史上、Ⅱ-Ⅴフレーズが作り出されるようになってから120年くらいたっていると思いますので、もう可能性は無いとも言えます。
でも、ありきたりのフレーズであったとしてもアドリブの最中に自由自在にフレーズを作り出せる能力はインプロヴァイザーとしては魅力的ではあります。
Ⅱ-Ⅴ はスタンダードコード進行において最大の頻度を持つ流れですので、ここを押さえれば非常に楽になりそうです。
世の中にはフレーズ集と言うものが溢れていますので、今回はそれだけでは分からないのではないかと言う部分に焦点を当てました。
ので、Ⅱ-Ⅴフレーズを期待されてもここにはありません。
目次
- 1、偽終止のⅡ-Ⅴ
- 2、機能コードのⅡ-Ⅴ
- 3、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ のフレーズ
- 4、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ におけるマイナーコンバージョン
- 5、ⅤofⅡ と ⅤofⅤ
- 6、曲の最後のⅡ-ⅤーⅠ-(Ⅴ)
- 7、Ⅱm♭5-Ⅴ7♭9-Ⅰm
- 8、コルトレーンチェンジ
- 9、半音進行などのコードチェンジ
- 10、まだまだありそうですが
1、偽終止のⅡ-Ⅴ
サテンドールのようなⅡm7-Ⅴ7-Ⅲm7-Ⅵ7の進行はⅡ-Ⅴからの偽終始です。
Ⅰに最も近い代理和音であるⅢm7に向かうと言うことで最も安定的な流れですが、曲としては解決してほしくない意思を感じられます。
解決したらドアタマでいきなり終わってしまいますから。
Ⅱm7-Ⅴ7-Ⅰ-Ⅵ7と強引に解釈する方法もありますが、普通はアドリブのコーラス数が進んでなんでもありの状態になってからです。
ありがちな方法としては、Ⅱ-Ⅴで使用したフレーズと同じものを全音上げて使用します。
なぜならメロディもそうなっているからです。
蜘蛛の巣のようにⅡ-Ⅴを張り巡らしてなかなか解決しない曲もありますが、keyを変えたメロディの連続の場合が多いです。
Ⅱ-Ⅴの練習としての第一歩は解決しないラインです。
Ⅱm7のドリアンスケールラインがベストマッチしますが、Ⅴ7のコードにも配慮してⅤの3度の音を目出させる場合が多いです。
オルタードの使用は最小限ですが、アウト感覚で使っても問題ない場合が多いです。
いかにもⅠに進みそうなオルタードは避けたほうが使いやすいラインになります。
スタンダード曲のコードをざっと見て解決していないⅡ-Ⅴの多さを知れば、ここの部分の重要さが分かると思います。
ハニーサックルローズのように、Ⅱ-Ⅴ-Ⅱ-Ⅴ と言う流れもあります。
解決しないⅡ-Ⅴに対して本に書いてあるような、ドリアン→オルタード系のラインを安易に使うことは無理があります。
サテンドールやスピークロウやハブユーメットミスジョーンズなどのアドリブラインをコピーするか、本に書いてあるラインを変形してみる必要があります。
ビバップスケールを使った場合は、Dm7ーG7に対して、
レミファソラシドド♯・レドシラソソ♭ファレ・ミ~ これは8音
レミファファ♯ソソ♯ラシ・ドシララ♭ソファファ♭レ・ミ~ これは10音 一部調整
コード分解を使用した場合は
レファラドララ♯シソ・ラファソミファレ〇〇・ミ~
2、機能コードのⅡ-Ⅴ
これも非常に頻度が高いです。
例・ジャストフレンズ
B♭M7 B♭M7 B♭m7 E♭7 FM7
ドミナントモーションではなく、コードの機能でトニックに進んでいる例です。
B♭m7はサブドミナントマイナーですので、FM7へ強い進行を持ちます。
ところが、サブドミナントマイナーの偽終止も多いのです。
例・酒とバラの日々
Gm7 C7 B♭m7 E7 Am7 ~
本でⅡ-Ⅴ-Ⅰフレーズをたくさん覚えて、いざ!となった時につまずきやすい部分でしょう。
先に解決しないⅡ-Ⅴ進行を持ってきたのは、実際の曲では解決するより、しない場合のほうが圧倒的に多いからです。
ドリアンスケールを徹底的に鍛える「マイナーコンバージョン」はこのタイプの進行に非常に有利です。
3、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ のフレーズ
四度進行して解決するドミナント7thコードにはオルタードテンションを好きなように使っても良い。
これは楽しい理論です。
オルタードテンションノートの加え方に決まりは無いので自由に選んだり選ばなかったりできるのです。
それで、四度進行するV7には様々なスケールが使用できるようになります。
経過音を含めれば12音全部がスケール構築に可能な音になります。
特に△7を経過音として使用している例が多いようです。
7thを強調するために△7は非常に重要な音になります。
Ⅱ-Ⅴ をⅤのみと考えることによってオルタードテンションの使用時間を引き延ばすことも可能です。
煩雑に使われるコードチェンジは、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ-Ⅰ → Ⅱ-Ⅴ-Ⅴ-Ⅰ です。
4小節の前の方に重心が偏り過ぎるのはあまり好ましくないので、休符から入ってⅡ-Ⅴ-Ⅴ-Ⅰ のラインを演奏すると、バランスが良くなります。
Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ フレーズを覚えた場合は、Ⅱ-Ⅴ-Ⅴ-Ⅰにチェンジする方法を考えてみると良いと思います。
4、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ におけるマイナーコンバージョン
Dm7はDドリアンとして、G7にはDドリアン、Fドリアン、A♭ドリアン、Bドリアンの4トニックシステムが想定できます。
想定できるだけで、理論書にはこんなことは書いていないので実験が必要になります。
どのスケールもG7のノンコードトーンを含みますのでスピード感が必要であると言う人も居ます。
5、ⅤofⅡ と ⅤofⅤ
Cのkeyで考えた場合は、
ⅤofⅡ は Em7♭5 A7 Dm7 G7
ⅤofⅤ は Am7 D7 Dm7 G7
スタンダード進行の要ですので12keyで覚えましょう。
ⅤofⅤの前半は解決しないⅡ-Ⅴと見ることが出来ますが、大きく見て D7 D7 G7 G7 ならオルタードテンションを自由に使うことが可能です。
また、リズムチェンジのサビはⅤofⅤの拡張とも考えられます。
Ⅲ7 ーⅢ7 -Ⅵ7 ー Ⅵ7 ー Ⅱ7 ーⅡ7 ー Ⅴ7 ー Ⅴ7
6、曲の最後のⅡ-ⅤーⅠ-(Ⅴ)
普通のフレーズを使用しても問題はありません。
しかし、最も重要なラストの進行でそれまでと同様に演奏していたら混乱を招きませんか?
本当にここがコーラスのラストなのかどうか、メンバーも自分も不安になることもあるのです。
最も分かりやすく、演奏効果が上がる方法はブルーノートの使用です。
特に多数コーラスの後半など混乱を招きがちな場合は、思いっきりブルージーに演奏するのが良い意味での明瞭さを作ります。
ブルーノートは曲の調性を安定させる働きがありますので、他にも使える部分があれば出来るだけ使用することを推奨します。
7、Ⅱm♭5-Ⅴ7♭9-Ⅰm
マイナーのⅡⅤです。
Cmのkeyで考えた場合は、
DロクリアンーG♭9系スケールーCドリアン(△7)
が普通の考え方です。
実はDロクリアンと言うのはG7に含まれるものであって、単独ならロクリアン♯(♮)2であるという説があります。
G7には♮9は使用できないのか?という疑問もありますね。
♭9th系の代表スケールとしてミクソリディアン♭2♭6を挙げます。
名前の通り9thと13thをフラットさせたミクソリディアンなので、最も調性が安定します。(旧名 HP5↓)
8、コルトレーンチェンジ
Cのkeyで書き出しておきます。
Dm7 E♭7 A♭M7 B7 EM7 G7 C
Dm7♭5 E♭7 A♭M7 B7 EM7 G7(♭9) Cm
一小節遅れて解決します。
9、半音進行などのコードチェンジ
Ⅱm7-Ⅴ7-Ⅰ に対していくつかのチェンジを使用できます。
また、このチェンジを取り入れた曲も非常に多いです。
♭Ⅲm7♭Ⅵ7ーⅡm7Ⅴ7ーⅠ
♭Ⅱm7♭Ⅴ7-Ⅱm7Ⅴ7-Ⅰ
Ⅱm7Ⅴ7ー♭Ⅵm7♭Ⅱ7ーⅠ
Ⅱm7Ⅴ7ーⅣm7♭Ⅶ7ーⅠ
Ⅱm7ーⅢ7ーⅠ
Ⅱm7ーⅦ7ーⅠ
最後のⅦ7はⅠの代理であるⅢm7への進行を想定したコードで、Ⅴ7では考えられないラインが使用できるので古くから多用されています。レスターヤングとか。
10、まだまだありそうですが
今回はここまでとなります。
思いつき次第、追記していきたいとも思っています。
オルタードの代わりに無関係なラインを挿入する方法も70年代に流行っていました。
ブレッカーやハンコックなど。
Ⅱm7やⅤ7またⅠで使用できるスケールは非常に多いのでここでまとめるのは無理と判断して割愛しましたが、それぞれのスケールの記事を参考していただけたら光栄です。
スタンダードを楽に演奏できるようになるためには、Ⅱ-Ⅴだけでも様々なヴァリエーションがあり、探求のし甲斐があります。
ジャズブルースから一歩進んでスタンダード進行を知るための第一歩として書いてみました。
このような抽象的な書き方よりも一曲ずつ覚えていったほうが早いと言うのが通説ですが、両面からのアプローチのほうが道を誤る可能性が低くなると言う考えによるものです。
なので、実際の曲に取り組むことがなにより重要であることに異論はありません。
長くなりましたが、最後まで読んでくださった方には感謝です。