マイナー・コンバージョン Minor Conversion アドリブ理論の革命
Pat Martino - Quantum Guitar, Advanced Concepts
マイナーコンバージョン・ラインに関しては32分55秒から実演。
ジャズギタリスト・パット・マルティーノは76年に脳動静脈奇形(AVM)による致命的な脳動脈瘤で倒れ、1987年録音のライブ盤「ザ・リターン」発表まで10年以上のキャリアを棒に振ることになりました。
90年代は体調も万全だったようで、6枚のリーダー作と同数くらいの双頭リーダー作の発表で60年代並みの録音を残しました。
音楽界へのカムバックをセンセーショナルとするために、聞きなれないジャズ理論であった「マイナーコンバージョン」と言うのを提唱したのですね。
マルティーノのカムバックへの支援者であったドイツ人ジャズ研究家は、マルティーノの演奏法はすべてドリアンスケールに帰結すると言ったそうです。
Jörg Heuserという人でこちらに彼のHPがあります。
90年代にマルティーノは2つの教則ビデオを刊行してマイナーコンバージョンの全貌を解説しています。
続いてもう2作の教則ビデオを刊行して補足としました。
Quantum Guitar: Complete [DVD]
マイナー・コンバージョンの解説をします。
目次
- 1、ダイアトニック・スケールの再編集
- 2、変化させたスケール
- 3、4度進行するドミナント7thの可能性
- 4、モード(一発含む)に対するマイナー・コンバージョン
- 5、メジャーコードにドリアンスケールの使用の是非
- 6、スタンダードコード進行の曲を問題なく演奏するためには
- 7、7音以外のスケールの併用
- 8、センスの問題
- 9、今後の展開
1、ダイアトニック・スケールの再編集
ここが最大のセンセーションです。
当時のジャズ理論を真っ向から否定し、新しい考え方を提唱したわけです。
音楽理論家と言う人たちは非常に保守的な考えの人が多く、新しい理論は過去の理論の上でしか認めないと言う考えが主流です。
つまり。複雑化だけに目がいき、単純化は否定すると言う頑なな考えの人が多いのです。
マイナーコンバージョンは次の考えが基本になります。
1オクターブをバランスよく7音階に構成する。
全音と半音のみを使用し、半音が連続しない。
Dドリアン・スケール レミファソラシド 全半全全全半全
Dドリアン△7thスケール レミファソラシド♯ 全半全全全全半
これしか存在しません。
この理屈を元にダイアトニックスケール理論を再構成します。
C△7・・・・Aドリアンスケール
Dm7・・・・Dドリアンスケール
Em7・・・・Eドリアンスケール C△7/Eの場合はAドリアン
F△7・・・・Dドリアンスケール
G7・・・・・Dドリアンスケール
Am7・・・・Aドリアンスケール
Bm7♭5・・・Dドリアンスケール
従来のスケール理論との大きな違いは、展開形を使用しないことです。
よりスケールに沿ったラインの使いまわしが可能となり、単純化による変化が起こります。
つまり、センスが良い人はより良く、センスが悪い人はより悪くと言う平等主義の日本人が好まない展開が起こります。
2、変化させたスケール
この理論体系は通常のコードスケール理論と微妙に違いますので、スタンダード曲の演奏などではすり合わせが必要になります。
マイナー・ダイアトニックに登場するⅤ7に対して、元スケールの6度が摩擦しますのでフラットさせると調和します。
Am7がトニックの場合、ドミナント7thにE7が使用されますが、Bm7♭5と同じスケールとしてDドリアンを設定した場合は、メジャー3度がありません。
E7から見て機能が確実なスケールを考えると、1音変化させて、
ミファソ♯ラシドレ 1、♭2、3、4、5、♭6、♭7
これは正式名称はミクソリディアン♭2♭6 見てのとおりです。
過去の理論ではハーモニックマイナー・パーフェクト5thビロウと呼ばれていましたが、トンデモ名称です。
他に♯9や♭5のテンションがありますので、従来の理論も併用可能です。
スティーブカーンのコピーによる初期作品集
3、4度進行するドミナント7thの可能性
Dm-G7-C△7-C△7 という基本的な進行に当てはめた場合、前半はDドリアン、後半はAドリアンという単純化が起こります。
ですが、4度進行するG7にはオルタードテンションを好きなだけ使っても良いという法則がありますので、使わない手はありません。
第一歩としては、すべてドリアンスケールで揃えた方が理解しやすいです。
G7に対して
Dドリアン 単純化の方向の代理
Fドリアン サブドミナントマイナーの代理
A♭ドリアン 裏コードの代理
Bドリアン △7thであるファ♯を使用する方向性
Dm7の4トニックシステムがG7上に形成されます。
これを使った場合は、従来の理論との違いを感じると思います。
4トニックシステムは全部合わせると12音になるわけで、機能的な分け方とは、ずれています。
Am7に4度進行するE7を想定した場合は
Dドリアン 単純化の代理
Fドリアン 裏コードの代理
A♭ドリアン 半音下から上がる ディミニッシュ的
Bドリアン 9thを使用する方向性
従来の理論とは摩擦が生じますが、マルティーノはすべて実演で証明しています。
普通のイメージで循環コードにマイナーコンバージョン
C△7・・・・Aドリアン
A7・・・・・B♭ドリアン
Dm7・・・・Dドリアン
G7・・・・・Fドリアン
パットマルティーノ編纂のエチュード集
4、モード(一発含む)に対するマイナー・コンバージョン
Dドリアン・モードに対してDドリアンスケールのみの使用は、50年代ですでに否定されていますので、様々な考え方が必要になります。
4トニックシステムの場合はDドリアンに対して、
Dドリアン、Fドリアン、A♭ドリアン、Bドリアンですが、
マイナーコンバージョン的に
Dドリアン、Dメロディックマイナー、Dハーモニックマイナー、Dエオリアン、Dフリージアン、Dロクリアン、Dロクリアン♯2などの使用と言う方法もあります。
ダブルディミニッシュやダブルホールトーンの使用も効果的です。
ダブルホールトーンの例
ファソラ ミソ♭ラ♭ ミ♭ファソ レミソ♭ レ♭ミ♭ファ
もちろん、逆行や方向転換も
5、メジャーコードにドリアンスケールの使用の是非
メジャーコードのインサイドノートは、1、2、3、♯4、5、6、△7
ですので短三度下のドリアンスケールと一致しますが、ラインとしての使用では雑なサウンドになる場合が多いようです。
これは、やはり従来のスタンダードコード理論との微妙な違いが原因だと思います。
従来の理論では調性が重要視されていますので、トニックメジャーに♯4の音は常に最上とは言えません。
マルティーノもスタンダード曲のトニックメジャーでは♯4を避けている場合が多いので、妥協が重要になりそうです。
6、スタンダードコード進行の曲を問題なく演奏するためには
マルティーノの実例ではドリアン類以外にブルーノート、ホールトーン、ディミニッシュ、オルタードスケールの使用が見られます。
分かりやすい実例としてはマルティーノのHPに、マイノリティ、ジャイアントステップス、レイジーバードのエチュードが公表されていたのですが、なぜか削除されました。
たぶん、著作権がマルティーノにあると思われるので公表は難しいです。
このエチュードではジャイアントステップスのコードチェンジをすべてドリアン類で弾ききることでこの理論の正当性を示していたように感じました。
スタンダードコードチェンジを普通に演奏するためには一定時間内での調性の確保が必要になります。
マルティーノのようなスピード感があれば弾ききることも可能ですが、相当難しいと思います。
そこで重要になるのが、調性安定のためのブルーノート・スケールです。
メジャーでもマイナーでも一定時間がたつごとに6音のブルーノートを使用することで調性を安定させる効果があります。
この技術があればどんな分野の曲でもマイナーコンバージョンは効果を発揮し、狙ったサウンドでアドリブすることが可能になるでしょう。
譜例を探してみたところ、ストリングスに入っているマイノリティのジョー・ファレルのコピー譜のPDFを発見しました。
聴いた人なら分かるでしょうが、ほぼマイナーコンバージョンです。
http://tritons.eu/ressources/releves/martino_minority_C.pdf
7、7音以外のスケールの併用
これが最も重要かもしれません。
マイナー・コンバージョンはドリアン・コンバージョンではないとマルティーノは言っていましたがこのことかもしれません。
過去の理論に捕らわれている場合はドリアンの使用しか思いつかないかもしれませんが、7音ではないスケールの使用も目立つのです。
例えば、サニーのアドリブの出だしのフレーズ、
ミレドラ、ミレドラ、これはAm4というテトラコードの逆行です。
ペンタトニックフレーズは何でも使用できるのですが、
ララソドラソミレミミレソミレドド~が得意フレーズです。
Am7に対してBフリージアンビバップスケールの使用
シシ♭ラソファ♯ミレド~ これはビバップ期からの常套フレーズ
10音だと、シシ♭ラソファ♯ファミミ♭レド~ 11thを採用
Amに4thインターバルビルドの使用
ラレソシミラファ♯レ~ も良い効果を出しています。
8、センスの問題
マルティーノの演奏とマイナー・コンバージョンは別物として意識すべきです。
ビバップ=チャーリーパーカーでは無いのと同じです。
つまり、センスによって無限のバリエーションが可能だと言うことです。
真似っぽくなったとしても、ジャズは演奏家個々人の人生の物語です。
発表から30年経った現代では、マイナーコンバージョン理論とパット・マルティーノの演奏は切り離して考えることが可能になったと考えます。
9、今後の展開
同じラインを12keyで演奏すると言うギター的な発想ですが、他楽器の演奏家も取り入れるべき要素は多いと思います。
分かり切ったことでしょうが、マイナーコンバージョン理論の発想元はコルトレーン・チェンジですから。
特筆すべきは、この理論はジャズ理論の範疇にとどまらないと言うことです。
ロックやフュージョンは当然として、世界中のあらゆるジャンルの音楽に溶け込みます。
特にクラシックやワールドミュージックとの融合はまだまだ大きな可能性を秘めていると思います。
今回はマイナーコンバージョンに関しての考察ですので、パット・マルティーノ奏法に関しては別の機会に行いたいと思います。
最後まで読んでくださった方には感謝しかありません。
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